アスベスト飛散防止サポート室長に就任したものの、アスベストの怖さは実感としては解りませんでした。
ゼネコンに勤めていた時、現場管理の事務を担当していましたので、1980年代の若手の頃には建築現場にはしょっちゅう行っていました。
吹き付けのアスベストが原則禁止されたのは1975年(昭和50年)ですから建築現場に行っても盛大にアスベストを吹き付けている光景は見ていないはずです。
そんなアスベストも2006年(平成18年)には全面禁止されました。
海外の原則禁止は欧州の国々が早いです。
アイスランド(1983年)、ノルウェー(1984年)、オーストリア(1990年)、オランダ(1991年)、イタリア(1992年)、ドイツ(1993年)、フランス(1997年)、ベルギー(1998年)、イギリス(1998年)
以上は20世紀中に禁止されました。
チリ・アルゼンチン(2001年)、オーストラリア(2003年)、EU各国(2005年)です。
なお、アメリカ では、1992年よりアスベスト含有製品6種類の製造、輸入、使用等が禁止されいますが、EPA(米国環境保護庁)の承認を得れば18種類は使用できることとしている。
(しかし、昨年次のような記事が出ています)
我が国のアスベスト全面禁止はどちらかというと遅い方のようです。
それではアスベストの影響で亡くなっている方は、毎年どのくらいいるのでしょうか?
下表は厚生労働省が公開している「中皮腫による死亡者数」の最新データです。
平成27年 1,504人(内、男性1,237人、女性267人)
平成28年 1,550人(内、男性1,299人、女性251人)
平成29年 1,555人(内、男性1,284人、女性271人)
平成30年 1,512人(内、男性1,275人、女性237人)
令和元年 1,466人(内、男性1,220人、女性246人)
令和2年 1,605人(内、男性1,337人、女性268人)
この数字は、あくまでも中皮腫による死亡数です。
中皮腫による死亡は今のところほぼ100%アスベストが原因とされています。
全国労働安全衛生センター連絡会議という組織のホームページには次のような内容が掲載されています。
“予防可能な疾病による負荷の推計を示すことによって対策を推進させることを目的にした「世界疾病負荷(GBD:Global Burden of Diseases)」推計が2年ぶりに2020年10月17日に更新された。1990年から2019年までの推計を示したもので,GBD2019と呼ばれる。(中略)
GBDは、①中皮腫、②肺がん、③卵巣がん、④咽頭がん、⑤石綿肺の5疾病について、アスベストへの職業曝露を原因とする疾病負荷を、死亡数、死亡率、障害調整生命年(DALY)等として推計している。
中皮腫と石綿肺については、すべての疾病負荷が、職業曝露以外も含めたアスベストへの曝露によるものと考えてよいだろう。実際、GBDは石綿肺についてはすべてがアスベストへの職業曝露を原因とするものとして推計している。中皮腫については、結果的にアスベストへの職業曝露によるものの全体に占める割合を計算できるかたちになっている。
卵巣がんと咽頭がんは、日本ではいまだに労災保険や石綿健康被害救済制度の対象疾病として明記されていないが、国際がん研究機関(IARC)によって認められているように、ともにアスベスト曝露が原因となる可能性があることが国際的に認知されていて、このような推計まで示されているということである。“
この数値の確かさは分かりませんが、毎年2万人とは恐ろしい数字です。
これまでにも何度かブログで触れてきましたが、『石の肺』(佐伯一麦)は、アスベスト被害の恐ろしさを実感として受け止めれる作品です。
小説家によるルポルタージュですので、ヒリヒリする痛みが伝わってきます。
レビューも紹介させていただきます。
このアスベストがどのように規制されてきて、また現在どのように規制されているのかを眺めてみたいと思います。