第九章 どこにでもある不滅の物質
「アスベスト」は、ギリシャ語の「永久不滅(asbestos)」が語源です。 耐熱性、耐薬品性に優れていて、断熱・防火・防音性も高いので、建材を中心に幅広い用途で使われていました。
とても便利な物質です。
そのために社会の至る所で使用されていました。
建物だけでなく、日常生活に関する品まで。
ニトリのバスマットにアスベストが含まれていて、自主回収したことは記憶に新しいです。
この本にも書かれていましたが、アスベスト君は何も悪者でもなんでもなく、便利さ(と低コスト)ゆえに様々な箇所で使用してきたその方法が悪かったのです。
さらに、世界中でその害が認識されてからも、なかなか使用を禁止しなかった国の対応にも問題があったのでしょう。
現在も、年間1500人ほどの方々が中皮腫のために亡くなっています。
終章 親方との一夜
「苗木ほどに萌(きざ)していただけだったアスベスト禍への不安も、三十年という歳月の間にいつしか大木のように確実な大きな災禍へと増長していたのです。
2006年12月17日、アスベスト被害を受けた下請け労働者や遺族、退職者たちによって「アスベスト・ユニオン」が結成されました。
正社員に比べて権利が補償されにくい立場の被害者が地域や企業を越えて協力し、企業に補償や情報開示などを求めていくということです。
親方との一夜でも話が出たとおりに、この建築不況で、ぼくのかつての建設現場で一緒に仕事をした仲間たちが全国津々浦々に散らばってしまっています。
彼らもまた、アスベストの被害を受けていないか、咳き込んでいないか、苦しんでいないか、困っていないか。
そんな中で、もしもどこかでこの本を見かけて手に取ることがあり、少しでも役立てたとしたら、またかつてのぼく自身のように、吸ってしまったものは仕方がないとあきらめていた仲間に、泣き寝入りはしないという勇気を与えることができたとしたら、という祈りに似た思いもあって、ぼくはこの本を書いたのです。」
我が社は、この『石の肺』が出版された年に、アスベストレベル3建材を割らずに梱包できるロングタイプの発売を開始しました。
一昨年、大気汚染防止法が改正され、それまで法律の規制対象とはなっていなかった、アスベストレベル3も規制対象となり、解体に当たっては「原形のまま取り外すこと」がルールとなりました。
我が社では2年前からSDGsに取り組んでいます。
目標の11番目に「住み続けられるまつづくり」と12番目に「つくる責任つかう責任」というものがあり、我が社ではアスベスト飛散による被害が広まらないように、少しでも多くの現場にロングタイプが普及することを祈っています。