第四章 むなしき除去作業
アスベスト除去工事の実態
「午後からおこなわれるアスベスト除去工事は、もっとも危険をともなう〈レベル1〉と呼ばれる「石綿(アスベスト)含有吹き付け材の除去作業」です。
簡単にいえばアスベストそのものを直接取り除くわけで、いちじるしく発じん量が多い作業です。
したがって、作業場所の隔離や高濃度のアスベストの粉じん量に対応した防じんマスク、保護衣を適切に使用するなど、厳重なアスベストに対する曝露対策が必要なレベルとなります。
ちなみに、アスベスト除去のレベルは3ランクに分かれていて、〈レベル2〉は、アスベストを含有する保温材、断熱材、耐火被覆材などの除去作業なので、レベル1に準じて高い曝露防止対策が必要なレベルとなります。
〈レベル3〉は、レベル1、レベル2以外のアスベスト含有建材(例えば成形板など)の除去作業で、そのままでは発じん性が比較的低い作業ですが、破砕、切断等の作業においては発じんを伴うため、湿式作業を原則とし、発じんレベルに応じたマスクを必要とするレベルとされています。
昔、ぼくが体験した現場でいえば、吹き付けアスベストにじかに電気ドリルを当てての作業はレベル1。
バールで天井板や壁を破砕した現場での作業はレベル2。
木造の家の外壁に使うサイディング材に穴をあけて防水コンセントを取り付けたような作業はレベル3、といったところでしょうか。」
この『石の肺』が刊行されたのは2007年のことです。
今から15年前ですね。
その頃から、レベル3建材も破砕や切断するとアスベストが飛散することが分かっていたようです。
ただ、一般的にレベル3は「非飛散性」と呼ばれていたので、中には「飛散しないものなんだ」という固定観念を持たれた方が多かったのではないでしょうか?
ちなみに、我が社はこの15年前にロングタイプの開発を開始し、レベル3の成形板等を割らずに梱包できるロングタイプの販売を開始しました。
この表題にある「むなしき除去作業」とはどういう意味でしょうか?
「国は1975年に、アスベストの発がん性をみとめたうえで、禁止ではなく、法律で厳しく管理して使用することにしました。
しかし、じっさいの現場では、アスベストの危険などは露ほども知らされておらず、管理とは名ばかりだったのです。
少なくとも、ぼくがいた現場では、防じんマスクをして作業している姿は見たためしがありません。
当時の工事代理人レベルの人たちでさえも、そういうことを言う人はいませんでした。
静かな怒りが、あらためて心の底から衝き上がってくるのをぼくはおぼえました。」
「むなしさ」よりも「怒り」ですね。
「国の尻ぬぐいを、誰かがそれをしなければならないから、するしかない。
そんな思いがしきりとします。
―積年の恨みを晴らしてやろう。
除去作業に入る前には、そんな高揚した気持ちもありましたが、じっさいにアスベストと対面すると、興奮はたちどころに失せてしまいました。
そして、人間が使い方をあやまっただけで、アスベスト自体には何の罪もないんがな、なあアスベスト君よ。
そう呼びかけたくもなりました。(中略)
それなのに、今日も、全国で、知ってか知らずか多くの国民がアスベストを吸い込んでいるこの国は、さしずめアスベスト大国、アスベスト列島といえるでしょう。」
そんな中、2005年6月30日の朝刊で、佐伯氏は「クボタショック」の記事を目にします。